🐺 銀狼リラと天空の鷲 🦅
🌲 Ⅰ. 森を駆ける狼
深い森の奥に、一匹の美しい銀色の雌狼がいた。彼女の名は リラ。
リラはしなやかに走り、鋭い爪で獲物を仕留める、誇り高き狼だった。
彼女は仲間を持たず、群れに縛られず、自由そのもの のように生きていた。
「私は、誰のものでもない」「私は、私のまま生きる。」
しかし、心の奥にはリラ本人すら、触れることができない 暗い影 があった。
🌑 Ⅱ. 過去の影
幼い頃、リラはとある群れにいた。しかし、群れのリーダーであった黒狼 グローム は、彼女を支配し、傷つけた。
グロームはリラに言い聞かせた。
「お前は取るに足らない存在だ。俺に従わなければ生きていけない。」
彼女の食べ物は奪われ、身体は痛めつけられ、時には狩りの「道具」として使われた。
「私は、グロームの道具じゃない…!」
そう叫びたかった。でも、声を上げるたびに牙を向けられ、沈黙することを覚えた。
やがてリラは成長すると、群れを捨てた。夜の闇にまぎれて逃げ、二度と振り返らなかった。
「私は自由になった。もう誰にも支配されない。」
それは、リラの宣言だった。
🦅 Ⅲ. 天空の鷲との出会い
ある日、リラは険しい崖の上で、一羽の大鷲と出会った。
その鷲は、悠々と大空を舞いながらリラを見下ろしていた。
「お前は速いな、狼よ。でも…まるで何かから逃げ、怯えているように見える。」
リラは鋭く睨んだ。
「私は逃避などしていない。私は自由なの!」
鷲は首を傾げた。「本当に?」
「では、なぜお前は、他の雌狼や子狼を見る度に、悲しげな声で吠える?」
リラの心臓が跳ねた。
「…。私は、他の狼に同情したりなどしない!!!」
「そうか?」鷲は冷静に言った。
「お前は、自分の過去を慰めるために、過去の自分のように不自由な狼たちに自分の生き方をアピールしようとしてはいないか? それを認めたら、自分の強さを失うと恐れているのではないか?」
リラは反射的に唸り声をあげた。「そんなことない!」
「ならば、なぜ ‘過去の影’ に触れると、吠えてアピールするんだ?」
リラは言葉を失った。
🔥 Ⅳ. 森の嵐(苦悩の時)
その夜、リラは森の奥へと走り去った。
空には黒雲が広がり、風が唸っていた。
「…何よ、あの鷲!いけすかない奴!」
彼女は苛立っていた。
「弱い奴らを助けることは良いことだっていうのに! 何だっていうの? 私に自信があることの何が悪いことだっていうのよ!」
怒りにまかせて、獲物を狩ろうとした。だが、怒りのあまり、上手く前足が使えない。腹が立っているせいで、喉が渇き、息が荒れる。
もうっ!もう今日は狩りはやめよ!とリラは息まき、銀色の毛並みを炎のように逆立たせて、怒りながら巣穴に帰って行った。
何かが心の奥底で崩れかけていた。
彼女の耳の奥で、グロームの声が蘇る。
「お前だって、俺そっくりじゃねえか?」
「お前だって、俺みたいになりたいんだろ? 正直になれよ」
「……違う。」
でも、本当に?
彼女は、自分が本当に「自由」なのか分からなくなっていた。
グロームに虐待されていた、みじめな過去を認めたら、「私は傷つけられる存在でしかなかった」と証明されてしまうのではないか?
気が付くと、冷たい雨が降り始めていた。
リラはずぶ濡れになりながら、森の奥の巣穴で小さく丸くなった。
「私は、どうすればいいの…?」
その夜、彼女は初めて、眠れぬまま震えた。
🌠 Ⅴ. 自分を取り戻す時
夜が明けた。外に出ると、雨は止んでいた。リラは気が付くと崖の上にいた。
鷲はそこにいた。
「戻ってきたのか。」
リラは、疲れた目で鷲を見上げた。
「私は…ずっと自由に生きてきたと思ってた。それにみんなも自由にしてやりたかった。でも、それは、自分がグロームとは違うということを言いたかっただけなのかもしれない。」
鷲は頷いた。
「自分の弱さを認めることは、弱さではない。お前がどれだけの試練を強く生き抜いたのか、それを示すだけだ。鉄は打たれなければ強くならないのだ。試練が与えられたことこそが、お前の強さを育てたのだ。」
「……。でも、本当に卑怯者だったわ、グロームは。」
「そうさ、そしてお前はあいつから逃れたのだ。お前は、ただの ‘支配される存在’ ではない。」
リラは、ゆっくりと目を閉じた。
「そうね…。」
「お前の強さはすでに証明されているのだ。お前はほかの狼とは違うんだよ」
「いや!だめよ、そんなことを言ったら。私はまたグロームみたいな高慢ちきになってしまうわ」
「違いを認めることは、相手を支配下に置くこととは違うんだ」
「…お前は、リラだ。お前がお前であることが、何もしなくても強さなのだ」
「私は私であるだけでいい」
「そうだ、お前は助けなくていい。誰かのビジョンになるかどうかは相手が決める。お前には選択権はないんだよ。手放せ」
そこで、リラは目が覚めた。
その瞬間、胸の奥の何かが、すっと軽くなった。
🌄 Ⅵ. 夜明けの誇り
翌朝、リラは朝日を浴びながら、堂々と遠吠えをした。
それは、過去の恐怖を超え、自分自身を取り戻した狼の誇り高き咆哮だった。
すると、なんと、次々と銀色の威風堂々した他の狼たちが集まり始めたのだ。
狼たちは、リラと同じ、一匹狼たちだった。
そして、ひとしきり、みなで一斉に咆哮を終わると、それぞれ散り散りに、狩りへ向かった。
その集まりは、それぞれの勝利宣言であると同時にリラが新しい仲間を発見した瞬間だった。自分のニーズを充足するのに、相手を虐げる必要がない仲間を。
彼女は、ただの「傷つけられた狼」ではない。
自由で、気高く、自分の足で生きる狼だった。彼女を満たすのに、誰かを虐げる必要もなく、完全に自由なのだった。
そして、彼女はもう二度と、グロームの虐待の記憶に怯えなかった。その記憶はまるで、逆の意味をすでに持ち始めていた。
「グローム、あなたが何をしようとしているのか、私からはグルっとお見通しよ」
そして、グロームは、尻尾を足の間に入れ、小さく丸まってしまった…。その様子は、敗北と服従を意味するポーズだった。
銀色に光り輝く狼リラは言った。
「私は、私だ。なんか文句あるか? 文句がある奴は前に進み出て見ろ」
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