■パパを嫌いになるルールを守る、ハリネズミのショーンとジェーン 2022年5月3日
「だめだよ、ジェーン、これは、パパからもらったおもちゃでしょ」
ジェーンは、ふくれっ面だった。ショーンも嫌だったけど、まぁ、仕方ないよね、と思っている。ショーンだって、自分の機関車をすてたのだから。
「この人形も?」ジェーンは、もう涙目だ。
「そうだよ、知ってるよね、ママがどうなっちゃうか」
「うん」
(挿絵: 子ども部屋の絵)
近所にある焼却炉に、とぼとぼ持っていく。
お友達にあげるっていう手もあるけど、お友達が使っているところを見たら、また欲しくなっちゃうから、焼却炉で焼く。ママは、パパのもの、ぜんぶ焼却炉で焼いた。
ジェーンは、まだ未練があるみたいだ。二人で、手をつなぎ、目をつぶって、思い切って焼却炉の口に入れる。
おもちゃたちは、ごうごうと燃えさかる火の中で、どろんと溶け、ジェーンの人形は、あっという間に黒くなった。
(挿絵: おもちゃが燃える絵 黒い人形)
パパには、半年に一度会うことになっている。ほんとは一か月に一回だったんだけど、ママがおかしくなってしまうから、半年に一回になった。
パパのことは、よく知らない。一緒に住んでいるときから、パパは、朝はいなかったし、昼頃帰ってきて寝て、また夜になると仕事に行くという生活だった。家にいても、パパの部屋は、シーンとしていて、少しでも物音をたてようものなら、ママが
「しっ!パパが寝ているでしょ」
という。(挿絵:シーンとしている寝室の絵)
だから、ショーンもジェーンもパパのことをよく覚えていない。最近は、半年に一回しか会わないから、どんどんパパのことを忘れていきそうだ。
一回目の面会の時のことをショーンは良く覚えている。パパがジグソーパズルをくれた。ショーンは、そのパズルを一週間かけて作った。別にパパに会いたかったわけじゃない。ただ、そのパズルが嬉しかったのだ。
ママはその一週間、ずっと不機嫌で、そして、土曜日におばあちゃんに電話をかけて、「ショーンが、パパからもらったパズルを嬉しそうにしている。パパはずるい。たまにしか会わないのに、子どもの心をお金で買っている」と言っていた。
そして、そのまま泣き始めた。
(挿絵: 泣いている絵)
僕とジェーンからは、全部、聞こえていた。
僕たちは、ママに連れていかれて、パパに会っていらっしゃいと言われたから、パパに会っただけだ。パパとは1時間くらいしか、会っていないし、それにパパに、おもちゃを下さい、なんて頼んだことはない。
だから、ママは、不公平だと思った。なら、最初から、パパになんか会わせなきゃいいじゃないか!家にいた時から、会っていないんだし!
ジェーンは、まだ小さいから、パパはね、パパはね…と家に帰ったら、パパの話でもちきりで、嬉しそうにしていた。でも、ジェーンも、ママが怒っていることは知ってる。
(挿絵: おんなの子)
パパとの面会が4度目の時、ショーンは、
「僕、もうパパに会いたくない」
って言った。そしたら、ママが喜んじゃった。
「もう、あなたには子どもたち、会いたくないんですって!」電話先で話している相手は、パパなんだろう。
ジェーンはがっかりしたみたいだったけど、これでいい、と僕は思った。
ほんとは、パパに会いたくないんじゃなくて、ママが狂ったようになるのが嫌なんだ。
ジェーンは、小さいころから、お腹を壊しやすい。パパの面会の日があると、一週間はママの機嫌が悪いから、ジェーンのお腹も、もちろん痛くなる。僕は、毎回トイレに付き合ってやらないといけなくなるんだ。ママはジェーンのお腹が痛いのは、パパのせいだと思っている。
(挿絵: ジェーンが、「おにいちゃん、あたし、お腹痛い…」と言っているところ)
正直、僕はパパとママが仲良くできないのは、どうでもいい。でも、僕たちを巻き込んでほしくないんだよ。
ジクソーパズルが燃える様子を見ながら、ショーンは、思った。
パズルより、平和が好きだよ、僕。
(お終い)
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幼児決断: パパを愛さない、弱い者(ジェーン)を守る
出来たスキーマ: 問題を回避する、弱い者を守る、後ろを振り向かないで前進する
健全な大人: 母親の問題だと切り分けて母親に対処させる、母親が乗り越えるべき課題
メンタルブロック: 大人は分かってくれない
昇華: 第三の大人(お釈迦様、メタ認知)を登場させ、子供に愛される夫への嫉妬を辞めさせる。子供の愛の取り合いから、子供を愛す大人に転換させる。
もしくは、ショーンに理解者としてのお釈迦様を与える。
■ 解説
離婚した夫婦が子供の愛をめぐって、張り合うのはよくあることです。子供は両方を愛しており、そのことが理解できないそれぞれの親は、相手の悪口を言ったり、相手をけなしたりすることで、父親から、あるいは母親から、子供の愛を引き離そうとします。子供は、親がいないと生きてはいけないため、生き残りの戦略として、それを受け入れます。これは受け入れざるを得ないために受け入れるだけです。
この心の動きのために、大人になっても、理不尽な心理取引に応じてしまうかもしれません。
例えば、課長と部長が嫉妬しあっている場で、片方の肩を持つなどです。子供時代の母親への認識…親へのロイヤリティ…と同じ行動を、必要のない職場で摂ってしまうかもしれません。人によって現れ方はそれぞれですが、理性的心理行動ではなく、可哀そうという感情によって動かされるかもしれません。