■美しい小鳥とバカなカエル
むかしむかし、ある森にミアという美しい小鳥がいました。ミアの羽は光の角度によって青にも紫にも輝き、歌声は森のどんな風よりも心地よい音色を奏でました。
ミアは空を飛びながら、森のあちこちで動物たちとおしゃべりするのが大好きでした。どんな悩みでも、ミアと話せば心が軽くなると言われていました。
ある日、ミアは古い井戸のそばで、一匹のカエルがせっせと桶を下ろしては引き上げているのを見つけました。
「何をしているの?」
ミアが井戸の縁にとまり、首をかしげると、カエルは得意げに答えました。
「見て分からないか? 水を汲んでいるんだ!」
ミアは井戸を覗き込みました。でも、底はカラカラに乾いています。
「この井戸には、水がないわ。」
すると、カエルは不機嫌そうにミアを睨みました。
「そんなことあるもんか! 井戸なんだから、水があるはずなんだ!」
ミアは静かに羽を広げ、風に乗ってふわりと舞いました。
「ねえ、ポチャ。一度、私と一緒に空を飛んでみない?」
ポチャは驚いて目を瞬かせました。
「カエルが空を飛べるわけないだろ!」
「そうね。でも、私が運んであげるわ。ちょっとの間だけでも、井戸の外の世界を見てみない?」
ポチャはしばらく考えました。でも、やがて首を横に振りました。
「いいんだ。この井戸の水を汲むって決めたんだ。」
ミアはしばらくポチャを見つめていましたが、やがてにっこり微笑みました。
「そう……じゃあ、私は少し遠くの池に行ってくるわ。そこには、水があるって聞いたの。」
ミアは風に乗り、空高く舞い上がりました。ポチャはその姿を見上げながら、ほんの少しだけ、心がざわつきました。
「もしも……もしも、ミアについていったら?」
でも、ポチャはその考えをすぐに打ち消しました。そしてまた、桶を下ろし続けました。
——数日後。
ポチャの喉はカラカラでした。体も弱ってきています。それでも、井戸のそばを離れられませんでした。
そのとき、ふわりと風が吹き、ミアが戻ってきました。くちばしには、一滴の水が輝いています。
「ねえ、ポチャ。これを飲んでみない?」
ポチャは疑いながらも、水を口に含みました。その瞬間、体の中に広がる清涼感に驚きました。
「……どこで、これを?」
「遠くの池よ。ポチャも、来てみる?」
ポチャは、ミアの羽ばたきを見つめました。そこには、自由がありました。
「……行ってみたい。」
ポチャがそう言った瞬間、ミアは優しく微笑みました。そして、そっと翼を広げました。
「じゃあ、一緒に行きましょう。」
こうして、ポチャは初めて井戸のそばを離れました。そして、自分が信じていたものが、ただの思い込みだったことに気づいたのです。
その後、ポチャは池でのんびり暮らしました。もう、空っぽの井戸には戻りませんでした。
そして、時々ミアが飛んできて、こう言いました。
「ちゃんと、考えて選ぶのよ。努力じゃなくて、可能性をね。」
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