第一話 たぬきどんの泥の船のお話 はこちら。
第二話 だぬきどんの事情のお話 は こちら。
たぬきの沈んでしまった泥船から逃げかえった犬は、ぶるるん!と体を震わせたあと、濡れた体を乾かすため、温かい岩の上に体を丸めた。そして、溺れて死んでしまったウサギのことを考えた。カメが言ったように、自分がウサギを殺したのだろうか?
犬は長いこと考えたが、考えても考えても、本当のことは分からなかった。
そんな犬が夢を見た。
その夢では、ウサギが申し訳なさそうに、犬のことを心配していた。
ウサギ: 「犬くん、もしかして、自分のせいで、僕が死んだんだって、思ってる?」
犬: 「だって、カメがそういったんだよ…。僕のせいなのかい?」
ウサギ: 「僕ね、いつも一度、川の上から、世界を見て見たかったんだよ。それで泥の船っって沈むかもしれないっては、思ったんだけど、たぶん、大丈夫、って思って乗ったの。」
犬:「そうだったの。」
ウサギ:「うん。それにね、たぬきと犬とカメが楽しそうに思ったんだ」
犬:「うん、沈む前は楽しかったよね」
ウサギ:「うん、そうだよね。それでね、僕は、犬くんにさ、俺のせいだって思ってほしくないの」
犬:「でも、カメが…」
ウサギ:「カメ、あいつトロい奴じゃん?」
犬:「確かにそうだけど…」
ウサギ:「僕、たしかに溺れ死んじまったけどさ、楽しかったよ」
犬:「僕は、君を助けたかったんだよ!」
ウサギ:「うん、知ってる。だから、もう俺のせいだ、って思わないでほしいんだ」
犬:「でもウサギは死んじゃったじゃないか!かわいそうじゃないか!」
ウサギ:「僕、かわいそうじゃないかも。だって乗るって決めたのは僕だし…」
犬:「それは、そうだけど…」
ウサギ:「それに死んで分かったんだけど、生まれたら絶対に死ぬことになっているんだ」
犬:「そうだけど…」
ウサギ:「僕は犬とタヌキとカメと一緒に船に乗って、景色を見れて良かったよ」
犬:「僕は、ずっとウサギも楽しく陸に上がって、そして長生きしてほしかったんだ」
ウサギ:「ありがとう。僕は大丈夫さ。死んだら、もう死なない。それに僕、君にちょくちょく会いに行くよ。僕、君が大好きなんだ」
そして、夢の中のウサギは犬にウィンクした。
犬は目が覚めた。
それからしばらく…
犬が散歩していると、たぬきが、アライグマと一緒に、いかだを作っていた。
「あれ、たぬきは泥の船じゃなかったの?」と聞くと、たぬきはバツが悪そうに言った。「お客さんがみんな、沈む舟には乗らないって言うんだ。それでアライグマに、いかだの作り方を教えてもらってたんだ」
犬は、そりゃそうだろうなぁ…と心の中で思った。
「このいかだは、いつできるの?」「もうすぐさ」
そこで犬は、カメを探しに行った。「カメさん、どうもたぬきどんがいかだの舟を作るらしいよ、乗る?」「うん。乗る乗る」
いかだが出来上がると、たぬき、あらいぐま、犬、カメが、いかだに乗り込んだ。今度はいかだは浮かんでいて、ゆっくりと漂うように川の上を進んだ。
犬は、ここにうさぎどんがいてくれたらよかったのに…と思った。でも、とても幸せだった。
犬は、うさぎどんは、命を懸けて、船でみんなを川遊びに誘いたいのなら、たぬきは泥ではなく、いかだで船を作らないといけないんだってことを教えんだ、って思ったのだった。
岸に近づくと、茂みの奥から、小さい子供のウサギが、いかだを羨ましそうに見ていた。
いぬどんは、今度、あの小さいウサギの子を誘ってやろうと思った。
お終い。
■ 心理学的解析
この物語は、罪悪感・喪失・受容・成長といった心理的テーマを扱っています。登場するキャラクターの心理状態と物語の流れを分析してみます。
1. 犬の心理:罪悪感と自己疑念
犬は、ウサギの死を「自分のせいかもしれない」と思い悩んでいます。これは典型的な 「罪悪感」 の表れです。他者の死や不幸に対して、「自分の行動がそれを引き起こしたのではないか」と思うことは、人間でもよく見られます。特に、喪失体験の後には 「もしあの時こうしていたら…」 という後悔がつきものです。
また、カメが「犬のせいだ」と言ったことで、犬はさらに深く自責の念に囚われます。これは 「外部からの非難を内面化するプロセス」 であり、特に責任感の強い人が陥りやすい心理状態です。
2. 夢の中のウサギ:救済と再解釈
犬が見た夢の中で、ウサギは 「自分の死を受け入れている」 だけでなく、犬に対して「君のせいではない」と語りかけます。これは 「心の防衛機制の一つである合理化」 に近い働きを持ちます。
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ウサギは 「自分で乗ると決めた」 と言っています。
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「川の上から世界を見たかった」 という動機を明かし、事故が完全に犬の責任ではないことを示します。
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「楽しかった」 というポジティブな側面を強調し、犬の悲しみを和らげようとします。
夢は、犬の深層心理が 「自分を許すためのストーリーを構築している」 可能性があります。これは 「グリーフワーク(悲しみを乗り越える過程)」 の一部として重要です。
3. たぬきとアライグマ:成長と適応
たぬきは以前、「沈む泥船」を作っていました。しかし、ウサギの死を経て、新たにアライグマと協力して「いかだ」を作るようになりました。これは 「失敗から学ぶ」 という心理的成長を示しています。
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最初の泥船は、「楽しいが危険なもの」だった → それが問題だと気づいた。
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「お客さんが乗らなくなった」=社会的フィードバックを受けた。
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「アライグマに教わっていかだを作った」=学習し、適応した。
これは 「認知的適応」 や 「学習による行動変容」 の好例であり、人間の成長プロセスと同じものが見られます。
4. 犬の最終的な受容:喪失を意味に変える
物語の最後で、犬は「ウサギが命を懸けて教えたのは、いかだの必要性だった」と気づきます。これは、喪失や悲劇を「意味のあるもの」として再解釈するプロセスであり、「意味の再構築(Meaning Making)」 と呼ばれる心理的適応の方法です。
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単なる事故として終わるのではなく、「ウサギの死によってみんなが安全な方法を学んだ」という価値を見出す。
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これによって、犬の悲しみが「ウサギの死は無駄ではなかった」という認識に変わり、「ポジティブな受容」 に進む。
総合的な心理学的見解
この物語は、喪失を受け入れ、罪悪感を乗り越え、学びを得るプロセス を描いています。
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「喪失 → 罪悪感 → 自問 → 夢を通じた自己救済 → 適応 → 受容と成長」 という心理的変遷が見られます。
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夢は、自己の内面からのメッセージとして働き、犬が前に進むきっかけになります。
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たぬきの適応も、経験から学び、改善する心理の表れです。
これは、心理学的に 「グリーフワーク(悲しみの処理)」と「成長的受容」 を描いた物語と言えるでしょう。
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