2025年5月9日金曜日

6歳のアルテミス 咲ちゃんのお話

 咲子のママは今日も困っていた。

妹の愛と弟の元太が「ママー!!」と叫んで、ママにしがみついている。

ママはドアの前。きっと”お仕事”に行きたいんだろう。

そのママを見て、咲子は思った。ママを助けてあげなくちゃ!

ママ、”お仕事”に行きたいんだよね?

じゃ、私がママを助けてあげる!

咲子は、妹の愛と弟の元太を抱きとめた。ママはその様子を見ると、さっとドアを潜り抜けた。

バタン。団地の重い鉄製のドアは一度しまったら子供の力では開かない。

がちゃん。ママがカギをかけた音がした…。

えーん!えーん!ママー!! ママー!!

愛と元太の二重奏で、泣き声が鳴り響く。でも、咲子は知っている。ママは帰ってくるんだと。

愛と元太はまだ泣いている。

咲子は、どうしたらいいか、わからない。でも、おうちの中は、いつもの通り。

咲子は、愛ちゃんの泣いている顔をしげしげと眺める。

愛ちゃんは、咲子のお膝に乗りたいみたいだ。抱っこしてリビングのソファまでもっていくと、弟の元太もついてくる。

そして、みんなでそれぞれ、好きに遊ぶ。愛ちゃんはまだ小さい。だから、とっても困っているんだ。愛ちゃん、泣いていいよ~ お姉ちゃんだよ~と咲子は愛ちゃんを慰める。

「お絵描きする?」

「あ、宝物探しゲームする?」

咲子が隠した宝物を、愛ちゃんと元太が見つけるゲームだ。 みんな大好き、宝探しゲーム。

それから、「千年女王ゲーム」もした。真っ暗にお部屋をして、シーツをかぶるゲーム。

そして、お風呂をあわあわにするゲーム。

そう、シャンプーを全部お風呂に入れちゃうの。

そうやって、みんなであそんで、しばらくしたら、ママが帰ってきた。

あわあわのお風呂を見て、あらまー!と一言。

「咲ちゃん、ありがとう。愛ちゃんと元太もありがとう。おかげでママお仕事に行けたわ」

ママは、ニコニコ。愛ちゃんもニコニコ。元太もニコニコ。

そうして、咲子は、頑張ってよかったな、って思ったのでした。

ママがドアをバタンしたときは、どうなるか?って思ったけど。

世界は壊れませんでした。

咲子はその夜、うさぎのピーターを抱っこしながら、愛ちゃんはピーターより重いって思ったのでした。

愛ちゃんはママとおねんね。元太もママと寝るーって言って行ってしまったけれど、咲子はピーターとおねんねしていました。

だって、咲子はおねえちゃんなんだもん!

この文章は、子どもの役割逆転(parentification)の心理的ダイナミクスを丁寧に描いており、特に情緒的親役割の内在化と、その中で生きる「咲子」の健気さと孤独が繊細に表現されています。


🔍心理学的解析:

1. 情緒的親(Emotional Parentification)

  • 咲子は実年齢にそぐわない「情緒的な母親役割」を引き受けています。

    • 「ママを助けてあげなくちゃ」「私がママを助ける」という発想は、親を支える子どもに典型的。

    • 自分のニーズや不安よりも、「ママが仕事に行けること」が最優先になっている。

    • 抱っこ、遊びの提供、慰めといった行動は、**内在化されたケアギバー(世話役)**の表れ。

2. 見捨てられ不安の処理

  • 「バタン」「ガチャ」という描写は、ママが子どもたちを物理的に“閉じ込めて”いく場面。音と共に切断の感覚が強調される。

  • しかし咲子は「世界は壊れなかった」と結論づけており、これは**トラウマ的出来事の再構成(reframing)**の萌芽と見られる。

3. 代理安心の構築(Self-Soothing and Role Creation)

  • 「宝探し」「千年女王ゲーム」「あわあわのお風呂」など、遊びを通じて危機の中に安心の物語を作り出している。

    • これはトラウマや不安に対する自己治癒的創造性の発動とも解釈できる。

    • 一方で、「シャンプーを全部お風呂に入れちゃう」という行動は、境界が緩い家庭環境や**過剰な自己犠牲に対する潜在的な反動(遊びによる逸脱)**の可能性も示す。

4. 「ありがとう」で完了する構造:報酬による刷り込み

  • ママの「ありがとう」という言葉と、家族全員のニコニコが咲子の報酬になっている。

    • このような体験の反復は、「良い子でいれば、承認される」という条件付き愛の内面化を形成する可能性がある。

5. 「ひとり寝」と「うさぎのピーター」:健気な孤独

  • 愛ちゃんも元太もママと寝るが、咲子だけは「ピーターとおねんね」。

    • ここに、咲子の情緒的孤立がほのかに描かれている。

    • しかし、そこに悲しみが直接描かれていないことで、**防衛的肯定(repressive positive)**の可能性もある。


🪞総合すると:

この物語は、子どもが“子ども”であることをあきらめ、親や兄弟の感情的な安全基地になってしまう構造を描いています。そしてその中でも、咲子は崩壊しない自己世界を創造する力を持っている。これは尊いことですが、長期的には自己犠牲型の自己形成や、自分のニーズの抑圧につながる可能性も高く、成人後に**「私は何を望んでいいのかわからない」**という空虚感を抱きやすい土壌にもなります。





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