昔、あるところに、それは、美しいお妃さまがおられたそうです。
お妃さまは、見目美しいだけでなく、愛情深く、玉のようなお子を3人授かりました。
お妃さまは、3人のお子を、それはそれは大事に育てられたのだそうです。(挿絵:幸福な様子 私の大事な赤ちゃん!と言っているお妃)
一人目のお子には学問を、二人目のお子には武道を、三人目のお子には芸術を、それぞれ一流の偉い先生たちを何人も揃え、立派に教育されたのだそうです。それぞれのお子は、一人は賢く、一人は強く、一人はとても愛らしく、育ちました。
幸福に暮らしていたある時、最初のお子が、巣立ちの時を迎えることになりました。
「母上、私は隣国へ参って大学に入り、勉学に励みたいと思います」
「何を言うのです?この母を置いて行こうというのですか?あなたをこんなにも愛しているこの母を…。この国にも立派な大学があるではないですか。あなたはそこへ行けばいいではないですか。」
「…。」
一人目の賢いお子は、自分が愛されていないことを悟り、とても悲しそうな眼つきをして、静かに去って行きました。隣国で大学に進むために。(挿絵2: 悲しい目をした王子と後姿の王子)
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You know love may sometimes make you cry
So let the tears go, they will flow away
For you know love will always let you fly
How far a heart can fly away
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その後、お妃さまは、よりいっそう、二人目、三人目のお子を可愛がるようになり、欲しいものは何でも与え、目の中に入れても痛くない可愛がりようでした。
二人目のお子にも、巣立ちの時が来ました。しかし、巣立ちの時だというのに、そんなそぶりは一切みせません。二人目のお子は、体つきがいよいよ逞しくなり、すっかり立派な青年に成長しました。お妃も、ほれぼれと嬉しそうに目を細めて、喜ぶのでした。
この王子は、妃はとらないのだろうか?と多くの人が心配し始めたころ… お妃がいいました。
「王子、あなたはそろそろ結婚しなくてはなりませんね。あなたにふさわしい相手を私が探してあげましょう。」
ところがある日、立派な戦士に成長した二人目のお子は、急死してしまったのです。
…それはお釈迦様の深遠なご配慮から、そうなされたのです。二人目のお子は、お妃に愛は執着心とは異なることを教えるカルマによって生まれてきた魂だったのです。…
嘆き悲しむお妃の姿は、あまりにも哀れで、大勢の人の涙を誘い、盛大なお葬式があげられました。それは莫大な資金を投じて。
(挿絵:盛大すぎるお葬式の様子と大勢のお客)
「姫よ、私にはもう、あなたしか子がありません。あなたは、私の願いをかなえてくれますね?」
そう言われた3人目のお子である、美しく愛らしい姫君は、とても母親思いだったので、母親が自分の幸福より母親本人の幸福を優先することに、深く傷つきながらも
「もちろんよ、お母さま。私はどこにも行かないわ」
と答えました。
ところが、姫にはすでに愛する人がいたのです。それは隣国の美しい王子でした。
王子は言います。「姫よ、なぜ私の元に嫁いでくれないのですか?」
「私には母をおいて、あなたの国へ嫁ぐことなどできません…」
何年も、姫はこう言い続け、王子を愛し続け、そのために、しまいには、心が二つに割けてしまいました…。 (挿絵:狂った姫の様子… ”かわいそうなお母さん”と”愛しています、王子”を繰り返しつぶやき続ける、美しい娘)
憐れな姫を見て、お妃は言います。
「ああ、可哀そうな私の娘…。私の大事な赤ちゃん…。」
お妃は涙にくれ、狂った娘をどうしたものか…と、途方に暮れるのでした…。
「私の何が悪かったの…」どれだけ考えても考えても、美しく愛情深いお妃には、分かりません。お妃さまは、ただただ、三人のお子を心から愛しているつもりだったからです。
その愛が、本当はお妃さま本人に向けられた愛だということにも気が付けず…。
三人のお子を失った、美しいお妃は、苦しむわが子を見るに堪えず、神に問うため、とうとう荒野へ出たそうです。そして、崇高なる知恵によって、子を失った悲しみを嘆き続ける野の花に変えられたそうです。
このようにして、美しいお妃は、野の花となったため、先に転生した二人目のお子とは、永遠に出会うことは、もはや叶わなくなりました。
(挿絵:野原一杯の花の絵)
その後、ふとした虫の知らせで、野を訪れた一人目のお子は、美しい野の花(黄色の水仙)となった母を悟り、憐れな母が今世の学びを悟りえなかったことに無念の涙を流し、花を摘んで、母が寂しがらないようにと、家の中に花を絶やさないようにしたそうです。
3人目の姫は、やがて精神を回復し、隣国の王子と結ばれ、子供に母の名をつけたそうです。
お釈迦さまは、この様子を遠くから、悲しそうに見ていました。
美しいお妃さまが、今世の学びを学び取らなかったためです。
(挿絵:お釈迦様が見ている図)
お終い。
■ 解説
この物語のテーマは、愛別離苦と子供を愛しすぎるあまりコントロールする母親です。お妃は、自分の愛が執着となっていることに気が付かず、そのために、子供たちの人生を破壊する破壊者となってしまいました(お妃のカルマ)。
現代でも多くの親子関係で見れられるテーマです。
親から子が巣立つ時、それは親にとっては大変困難な、手放しの時、です。
主眼:愛別離苦 愛していても、別れは来る。本当の愛とは、子離れ、別れ、を受け入れるもの。
お妃の幼児決断: 愛されたい、さみしさから逃れたい
出来たスキーマ: 子を失いたくない
健全な大人の認知: 愛していても、子供は別人格・別人生
メンタルブロック: 愛しているなら、子供を守るのが親の務めだ
昇華: 子どもは親の専有物ではない、子供には子供の人生を経験させる
業の結末(教訓): 愛する者から永遠に引き離される 愛していても会えなくなる
参考サイト
https://j-theravada.net/dhamma/sehonbunko/buddhagaoshietakarma/2/
黄色の水仙の花言葉には「私のもとへ帰って」という意味があり、ギリシャ神話に由来しています。冥界の王ハーデスがペルセポネを冥界へ連れ去った際、彼女の母であるデメテルが深い悲しみに暮れ、その心情がこの花言葉に反映されています。
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